▼「銀(しろかね)も金(くがね)も玉も何せむに優れる宝子にしかめやも」―誰もが小学校で教わった山上憶良の短歌である。子に対する親の思いは昔も今も不変である...はずである。ところが、親等からの虐待で幼い命が失われる事件が後を絶たない。7月に大阪で起こった幼い姉弟遺棄事件がまだ記憶に新しいが、その後も児童虐待のニュースは絶えることがない。厚生労働省の集計では全国の児童相談所が昨年度に相談を受けた児童虐待の件数が4万4210件で過去最高を更新。また、警察庁の発表によると昨年の児童虐待による検挙件数も過去最多の335件となっている。今年は上半期だけでも199人が逮捕され、被害を受けた子どもは187人、うち18人もの幼い命が奪われているという。▼増え続ける虐待を食い止めようと、2000年に児童虐待防止法が施行されて11月でちょうど10年になる。虐待を受けたと思われる児童の通告を国民に義務付け、08年の改正では児童相談所に強制的な立ち入り調査などの強い権限が与えられた。また、悲惨な事件が起こるたびに児童相談所や市町村など関係機関は対策を強化してきた。しかし増加傾向に歯止めがかからず、更にはこうした関係機関が関与しながら救えたはずの命が失われるという悲劇が繰り返されている。▼原因はいろいろあるだろうが、一つには、法改正で強制的な介入の枠組みができたが、手続きが煩雑でハードルが高く緊急時には使いにくいことや、強制介入といった手段には基本的に慎重な役所の体質などからほとんど活用されていないという実態がある。もう一つは、児童相談所や市町村の構造的な問題として、増加する相談件数に丁寧に対応できる人員が十分確保されていないことや、児童福祉司は一般行政職のポストの一つであり、異動サイクルが短く専門性の蓄積が難しいことなども指摘されている。▼厚生労働省は、改めて全国の児童相談所に対し住居への強制的な立ち入りなど積極的な対応を要請したが、国や自治体など関係機関は虐待を防ぐために構築した仕組みや体制が何故機能しないのか改めて検証し、「絵に描いた餅」にならない実効性のある対策や体制の整備・強化など、虐待を受けた子どもたちの適切な対応に向けた仕組みづくりの再構築をお願いしたい。▼更には虐待する親のケア。虐待の背景は子ども時代の虐待の連鎖、経済的貧困、核家族化などによる地域や社会からの孤立、育児についての無知などが複雑に絡み合って根が深いという。したがって、処罰すれば解決するものではないので、事後対策だけでなく事件に至らないための対策や、危険回避のために子どもを一時的に保護しても再び親子が家族として暮らせる環境づくりも重要と考える。▼我々は何ができるのか。虐待防止は早期発見、早期対応が第一。異変に気づきながら何もしないのは「罪」と認識し、迷わず、人任せにせず通報すること。間違いであったら〝すいません〟と謝ればいい。最も重要なのはそんな国民一人ひとりの意識改革ではないか。こと子どもの健全育成に関しては大いに「お節介やき」「かまい」になろう。
